こんにちは! 酒田の社会保険労務士 村西です。
私は、顧問契約に際してはまず就業規則を確認いたしますが、最近、新しく関与することになった会社で、就業規則の綴りの中に労働基準監督署による 『是正勧告書』 が出てきたのです。
こういうことはよくありますので、何の気なしに見ていました。
すると、中にはこんなことが書いてありました。
労働者、〇〇 〇〇(労働者の名前)の平成〇〇年〇月〇日から平成〇〇年〇月〇日までの時間外労働に対し、2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていないこと。
再計算のうえ、不足額については遡及して支払うこと。
『個別労働紛争』 にも積極的
労働基準法では、『申告』 という制度(第104条)があり、労働者が労働基準監督官に会社の法違反を 『ちくる』 ことができます。
ですから、これは明らかに申告による調査があり、それにより交付された是正勧告書であると思われます。
しかも、雇用保険の事業所別被保険者台帳をみると、ちょうど平成〇〇年〇月〇日に離職しています。
ですから、退職後に労働基準監督署に飛び込んだものであることは明白です。
『時間外労働に対し』 とは何か?
この労働者は、時間外労働をしたと主張しているようですが、そもそも、その時間外労働があったのか、なかったのか、労働基準監督官は何で判断しているのか?
まぎれもなくタイムカードです。
この会社は労働時間管理をタイムカードで ”しか” 行っていなかったのです。
しかし、タイムカード打刻時刻まで残業していたとする証拠はあるのか?
ありません。
では、タイムカード打刻時刻まで残業していなかったとする証拠はあるのか?
これもありません。
労働基準監督官が時間外労働手当てを支払うことを強制する権限はあるか?
ありません。 時間外労働があったのか、なかったのか、何時間あったのか、分からない状況で、行政機関が民間企業に支払い命令をすることはありません。
そのようなことは裁判所の仕事です。
是正勧告は、行政指導です。行政指導に強制力はありません。
監督官が時間外労働があったと認定できる根拠は?
ありません。
唯一タイムカードしかないから、それが終業時刻であろうと推測するしかない訳です。
反証がない中では、これによる計算を求めるしかなかったものと思われます。
結局、時間管理をきちんとしないから、こうなるのです!
労働基準法は、賃金の計算方法を 『労働時間』 で行うよう強制しています。
唯一の労働時間を記録するものがタイムカードしかない場合、会社側がこれを時間外労働ではない旨を立証しなければならなくなります。
普通は、請求する側が立証責任を負うのが原則なのに、逆転してしまいます。
こういうリスクは、身近にもあるということを考えておきましょう。