こんにちは! 酒田の社会保険労務士 村西です。
休職規程は法律上求められるものではない
私は職業柄、様々な会社の就業規則を拝見してきましたが、ほぼすべての就業規則にこの『休職規程』があります。
しかし、この規程については労働基準法でいう『相対的必要記載事項』に該当し、この制度を設けないことを選択する場合には特に就業規則に記載する必要がないことを前提に考えましょう。
満了時直前の就労可否判断が労務不能の場合
多くの就業規則でこの『休職期間』を定めている訳ですが、一般的に期間が満了すれば退職扱いとすることを前提としています。
さてこの場合、労務提供不能という理由での解雇扱いとは法的意味合いに違いがあるのでしょうか。そして、そもそもこの様な扱いはなぜ許されるのでしょうか?
こんな判例があります。
労働者Aは交通事故(私傷病)で負傷、休職 → 復職申出 → 会社は治癒していないと判断 → 休職期間を延長する等の措置を経て最後の休職期間満了直前に就労の可否判定テストを実施 → 就労不能と判断し会社はAに対して退職の通知を行った → Aはこれを違法とし提訴
Aの言い分
【この通知は違法な解雇であり無効だ】
裁判所はこれに対し、次のように述べました。
・本件の退職は解雇ではなく、休職期間満了による雇用契約の自動終了である。
判断の要点
○休職期間満了による退職は、意思表示が無くとも雇用関係が終了する、定年退職と同様の雇用契約自動終了事由である
○Aが解雇であることを前提に無効を主張する点は認められない
○就労の可否判断テストの結果等からAが従前の職務を通常行える健康状態に回復していなかったと認める
まず、この事例で争われたのは、休職期間満了による『退職』が解雇なのか否かという点です。
裁判所はその点、解雇ではなく自然退職、つまり自動的に雇用関係は終了するとしています。これは、休職期間満了時に治癒していない労働者をわざわざ一旦復職させた上で解雇するという手間を掛ける必要がないからです。
満了前に復職の申し出があった場合、これを拒否することはできるのか
さて、前述の事例でも一旦は満了前に復職の申し出があった訳ですが、会社はこれを拒否しました。次の事例は、この復職拒否自体が違法ではないかという事例です。
労働者が『軽作業からなら始めて良い』と記した医師の診断書を添えて復職願を提出し、期間満了前に出勤し始めた場合です。
工場で溶接の仕事を担当していた労働者Aが交通事故で休職 → Aが医師の診断書を添えて復職を願い出た → 会社は元の溶接作業ができるようになるまでは復職させないとした → Aは満了直前に出勤し始めた → 会社はこれを拒み、押し問答の末Aを転倒させ、再びケガを負わせた → このケガの治療中に交通事故による休職期間が満了したため、会社は退職とした → Aはこれを無効とし提訴
これに対し、裁判所は次のように判断しました。
・会社は、Aが自然退職になっていないことを前提として、定年までの退職金を支払うこと。
判断の要点
○休職期間満了による自然退職の取り扱い自体には一定の合理性がある
○労働者が復職を申し出たとき、使用者はこれを拒否する場合は具体的な理由を立証する必要があるものとすべき
○本件で会社が復職を拒んだ理由は元の業務をするだけの状態に治癒していないことであった。しかし、休業前と同じ仕事に復帰できることを要求することに理由がない
この事例で争点になった点は、医師の診断書で『軽作業からなら始めて良い』となっているにもかかわらず、会社が元の作業ができるまでの状態を求めたことが妥当か否かです。
裁判所はこの会社の判断を認められないとしました。つまり、元の仕事ができるか否かの判断に固執することは間違いだと判断したのです。
一方、別の判例では会社が労働者に診断書の提出を求めても労働者がこれを提出しない場合は休職期間を延長せず、満了をもって退職とすることを認めています。
私傷病を理由に自宅療養を命じた場合、その間の賃金は支払わなければならないか
次の事例は、最高裁の判断です。
現場監督である労働者Aがバセドウ病であることが分かり、現場作業不能となる → Aは事務作業ならできると申し出たが会社はこれを拒み、休職として自宅療養を命じた → Aは4カ月後に復帰 → Aは4ヶ月の欠勤中も事務作業であれば可能だったと主張し賃金を求め提訴
これに対し、裁判所は次のように判断しました。
・Aが病気のため現場監督業務を充分には果たせないにしても、会社にはAを事務作業等他の業務に配置する現実的可能性があったので、Aの主張を認める
判断の要点
○Aは20年以上現場監督として従事してきたが、労働契約上、職種等を限定していない
○自宅療養を命じられた際、Aは事務作業が可能な状態であり、かつその労務提供を申し出ていた
○会社には、Aに遂行可能な事務作業が少なからず存在し、Aをこの業務に配置する現実的可能性があった
○このような状態であるにもかかわらず、会社はAの就業を拒否したのであるから、Aは不就労期間の賃金請求権を失わない
この判例では、労働者の経験や能力等、会社の規模や業種、その会社の配置や異動の実情や難易度などを総合的に見て、このような事情から配置可能な業務があり、かつ労働者が労務提供を申し出ている場合には、その配置可能な業務に就かせ賃金を支払わなければならないとしています。
なお、会社が小規模なため配置転換ができない場合、配置可能な業務が無い場合、労働者が配置可能な業務に就くことを申し出ない場合、配置可能であっても労働者に能力がない場合などは、賃金支払い義務はないものと解されます。