こんにちは! 酒田の社会保険労務士 村西です。
下記は労働基準法違反で、地検に書類送検された事例です。少し前の事件ばかりですが、ご参考までに。
老舗ホテルを書類送検
賃金など明示せず甲府労働基準監督署は20日、甲府市湯村の「常盤(ときわ)ホテル」と同ホテル副支配人の男性(60歳)を労働基準法違反の疑いで 甲府地検に書類送検した。
調べでは、同ホテルは4月に採用した5人の新規卒業者に対し、賃金の取り決めの労働条件を書面で明示する義務があるにもかかわらず、明示しなかった疑い。また、5月25日、従業員から就業規則の閲覧を求められたが拒否し、規則の周知義務を怠った疑い。(出典:毎日新聞(平成17年7月20日)
労働基準法違反とはいえ、たったこれだけのことで・・・、厳しいですよね。
しかし、これが一般紙に報道されたのです。
ちなみに、調査をする労働基準監督官は「特別司法警察官」でもあります。だから、監督官の判断で、書類送検や逮捕ができるのです。
なお、調査の際にチェックされる書類は、
○ 賃金台帳
○ 出勤簿、タイムカード
○ 就業規則
○ 残業、休日出勤に関する協定書
などです。
調査時に、これらの書類を
○ 隠す
○ 改ざんする
○ 口頭での言い逃れをする(悪質な場合)
などの場合、書類送検となる可能性が高くなります。
完全に保全できていない場合でも、絶対に避けるべきことは書類送検です。当然ですが報道されれば、売上にも大きく影響します。
それに、書類の整備は重要です。調査で指摘されることは単純に書類の体裁さえ整えれば、防げたことも多いのです。
また、行政に対してだけでなく、従業員との関係においてもトラブルを引き起しかねない、水漏れのようなものを止めることにもなります。
さて、労働基準監督者がここまでやるケースとは、
危害防止に関する基準違反を繰り返す場合や、労働基準行政機関を極端に軽視した行為の場合、例えば、悪質な災害かくしや、監督官の是正勧告書や命令書に虚偽報告をして発覚した場合等が多いようです。
京都の漬物製造販売会社の場合
従業員男性に法で定める単価に満たない残業手当を支給していた。男性は15万円が未払いである旨、京都下労働基準監督署に申告。社長は同署からの10回を超える出頭要請に対し「忙しい」と大半を無視。さらに「見習いに残業代は必要ない」「ミスが多いから時間が掛かるのだ」などと自らの主張を繰り返した。また、「逮捕するならしてみろ」と発言したため同署は逮捕に踏み切った。(労働基準広報2006 №1535)
池上彰さんの「けしからん罪」とも言えそうです。
函館の洋菓子店の場合
会社が従業員16人に対し、残業手当計380万円を支払わなかったとして函館労働基準監督署に是正勧告を受けた。これに対し、不払いの割増賃金を支払わず、偽造した領収書を添付した是正報告を提出、これが発覚。同署は手口が悪質だとして社長・取締役のほか総務担当者の女性(29)を含め3人の書類送検に踏み切った。(労働基準広報2006 №1544)
結構典型的な事例ですね。
送検後、企業はなにをしなければならないか。
・・・不起訴処分となることも
不幸にして労働基準関係法令違反で送検されたとしても、まだ遅くはありません。
できる限り速やかに法違反を是正することです。検察庁に呼び出される前に法違反を是正して深く反省の態度を示せば、初犯の場合は、監督官から見れば如何なものかと思われるような事案でも不起訴処分(賃金不払いの場合等)となることもあります。
不起訴処分には、起訴猶予、嫌疑不十分、嫌疑なし、罪とならず等の扱いがあるそうですが、書類送検等をされた場合でも、起訴率は近年では50%を若干下回っているようです。送検後の態度がよければ半分は起訴を免れられることになります。
昔は図々しく構えてそのまま成り行きに任せる、というツワモノ(ただしその人は前科数犯でしたが)もいたそうで、これも1つの生き方ですが、コンプライアンス重視の今日、そのような態度は世間的にも許されなくなっているでしょう。
特に最近の送検事例では、ある意味ではシビアになり、署長の判断でどしどし送検されるようになったとも聞かれます。監督官魂の強い監督署長の場合、不正を許さないとばかり司法処分をドンドン進め、行政効果を高める場合もあるでしょう。
なんだか、最近この手のドラマも始まったそうで、遵法精神の低い事業主には、冬の季節到来といったところでしょうか。