こんにちは! 酒田の社会保険労務士 村西です。
「傷病手当金」とは、健康保険の給付で、私傷病により労務不能になり賃金が支払われない場合に、連続して休業4日目から支給される給付金制度です。
傷病手当金は1年以上の被保険者期間があり、かつ在職中に要件を満たせば、退職後つまり健康保険の資格喪失後も「資格喪失後の傷病手当金」として、支給開始から最大1年6ヶ月間、労務不能であるという要件を満たしている限り支給されます。
傷病手当金の給付額は1日につき標準報酬日額の3分の2ですから、月に換算すれば概ね給与の3分の2の額になります。
多くの企業では、私傷病により労務不能になったからといって即時解雇または退職を強要されるということはありません。
たいていの会社は休職の制度があり、一定期間は休職という形で在職し、その間は給与は支払われなくても、それに代わる傷病手当金を受給しながら療養することが一般的です。
退職後に傷病手当金が受けられるケースとは
会社が定めている休職期間が傷病手当金の受給期間よりも短い場合、または何らかの理由で休職期間中に退職することになる場合は、「資格喪失後の傷病手当金」を受給する可能性が高くなります。
なお、休職期間中も給与の全部または一部を支給するという会社もありますが、その場合、傷病手当金の額が一部支給される給与より高い場合は差額支給という形で調整され、給与のほうが高い場合は傷病手当金は支給されません。
ただし、後者の場合であっても、在職中に労務不能の状態が連続3日間(待期期間)に達すれば「資格喪失後の傷病手当金」の要件は満たすことになります。
要は、待機を満たせば受給権を得ることができ、その後の労務不能期間に支給申請した結果、支給されるかされないかは別問題ということです。
ですから、退職前に年次有給休暇を消化し切った場合でも待機は完成し、受給権は得られます。
在職中は有給なのでその間の支給はされませんが、在職中に受給権は確保できているので、退職して無給となった後は支給されるのです。
また、退職後に資格喪失後の傷病手当金を受給している間は、雇用保険の失業給付(以下「基本手当」という。)は受けられません。
したがって、傷病治癒後に雇用保険の失業給付を受ける十分な期間を確保するために、ハローワークに「受給期間延長」の手続きをしておく必要があります。
雇用保険の受給期間とその延長
雇用保険の「受給期間」は、基本手当の「所定給付日数」と混同されることがありますが、両者はまったく別の概念です。
雇用保険の「受給期間」とは、給付を受給することが可能な「時間」の枠であり、基本手当の「所定給付日数」とは、受給できる給付「日数」の枠です。
つまり、「受給期間」=離職後1年間という時間の枠の範囲で、所定給付「日数分」の基本手当を消化するということになります。所定給付日数が残っていたとしても受給期間が過ぎてしまえば給付を受けることはできなくなります。
基本手当は、「休職の申込み」をした日を起点に7日間の待期期間がカウントされ、自己都合退職の場合はさらに3ヶ月間の「給付制限」期間を経てようやく受給が可能となります。
したがって、休職の申込みが遅れる、または受給期間中に「失業」と認定されない日がかなりの日数になる等の理由で、受給期間中に所定給付日数分の給付を受けられないことは十分にあり得ることなのです。
「失業」と認定されない日の代表例として、前述した資格喪失後の傷病手当金受給期間があります。傷病手当金は、労務不能でなければ受給できませんが、労務不能では「失業」の要件を満たしません。
雇用保険法上の失業とは
雇用保険上の失業とは、次の状態をいいます。
①労務可能で
②労働の意思があり
③なおかつ職業に就けない状態
と定義されているからです。
したがって、傷病手当金受給中は、失業と認定されず基本手当が支給されないまま受給期間が経過してしまいます。このようなことを防ぎ、十分な受給期間を確保しておくために受給期間延長という制度があるのです。
受給期間延長は、傷病、出産・育児等の理由により、引き続き30日以上職業に就くことができない期間がある場合に認められます。
延長が認められる期間は最大で3年間です。手続きは、住所地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に、引き続き30日以上職業に就くことができないこととなった日から1ヶ月以内に「受給期間延長申請書」を提出します。