こんにちは! 酒田の社会保険労務士 村西です。
労働基準法と労災保険法は次の通り、非常に密接な関係にあります。
労基 : 労災事故は会社の責任だから、治療代も休業補償も全部会社が負担するべき
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労災 : これを労基法で義務付けていても、払えない会社もあるから社会保険制度にするべき
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労基 : では、労災保険法で同一事由による保険給付を受けるべきときは会社の責任は免除します
つまり、労基法で会社に業務上災害を補償するよう責任を負わせていますが、会社に補償する能力のないときは、従業員は現実に補償を受けることができなくなるため、このような事態を避けるために労災保険制度を設けて確実に補償が受けられるようにしたものです。
このことから、他の社会保険制度と異なって、労災保険の保険料は会社が全額負担します。
休業手当もある
実は、労基法にはもう一つ休業補償制度があって、『会社都合で仕事ができないときは一日当たりの平均賃金の6割は保証しなさい』というものです。これを休業手当といいます。
さて、困った事件が起きました
●タクシー乗務員Aが追突され、ケガを負いました。運転できないので、会社は休職を命じます
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●ところが復職できる前に労働基準監督署が途中で治癒したとして、労災の休業補償を打ち切った(治癒とは症状が固定した状態を含みます)
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●Aは、次の点を主張して会社を訴えた
①労災の給付が終わったのだから復職させないのは不当だ。事務仕事ならできたのだからこの間の給料を払え!
②給料満額でなくとも、復職させない会社の都合で働けないのだから平均賃金6割の休業手当を払え!
③そうでなくとも、労災からの給付がないのだから原則通り会社が休業補償しろ!
結果(趣旨)
①Aは乗務員なのだから事務職として復帰させる義務はなく、給与を支払う理由がない。また、試乗勤務が必要な状態で復職を認めなかった会社の判断は正当な理由がある
②これは、会社都合で働けない状態とはいえない
③労災保険からの給付を受けるべき同一事由で会社の休業補償義務はない
実は、③の部分は判断が別れ、この事案は最高裁までもつれました。
争点となったのが、『労災保険から給付を受けるべき同一の事由』であれば、実際の給付は労働基準法上の休業補償義務に満たない場合でも、会社に差額の補償義務までもないのかという点でした。
この点は一審、二審で判断が別れましたが、結局最高裁は『補償義務の全部を免れる』としました。(最判平20.1.24)
この場合、症状固定後の休業期間については、労働者は会社からも労災からも補償が受けられないことになります。